アクチュアリーだから高収入というのは残念ながら、普通に嘘です。悲しい。
アクチュアリー特化の転職エージェントや試験対策講座を販売している企業の広告が飛び込んでくる。
「アクチュアリーは年収3,000万円!」——はい、、、論外。話を盛るにも限度がある。


少なくとも損害保険の現場で私が見てきたアクチュアリーは、「高収入を狙ってなる職業」ではない。
※なお、これは損保での経験に基づく話です。生保は待遇が相対的に良いこともあると聞くし、この記事で触れている“最悪の真実”が当てはまらないケースもあるだろう。年金アクチュアリーについては、DB縮小の話題はよく耳にするものの、肌感の確信までは持てていない。
インターネット上の盛り過ぎた情報にひっかかっている学生たちを、事前に救いたい。
(というのも、実際にアクチュアリーになってみると、ネットで言われているほどの給料じゃないというリアルに疲弊している人が多いので、目が血走っている学生に一度深呼吸してもらいたいという意図です)
アクチュアリー正会員はコスパ最悪
日々やっていることの多くは、四則演算と日本語を丁寧に読む作業だ。複雑怪奇な数理モデルを毎日ぶん回しているわけではない。
もちろん、モデルが必要な場面はあるし、高度な判断もある。
ただ、「難しい数理を知っている=高い給料」という単純な線は引けない。
「難しいことをやっている人が高収入」という思い込みは危険だ。
大学の研究者は(形式的には)人類史に刻まれる成果を論文として出しているが、収入は決して高くないということはご存知でしょう。
お金になるのは“難易度”ではなく“産業”だ。
アクチュアリーは基本的にコストセンターで、事業の売上を真に直接的に生む部署ではないという見方もある。
アクチュアリーの新卒のレンジはだいたい350~500万円台。一方、コンサルは普通に500~650万円あたりから始まることが多い。少なくともスタート地点で見ると、アクチュアリーの給料というのは高くない。がっかりである。
しかもアクチュアリーは、仕事後も土日も勉強、勉強、また勉強。昇格・プロモーションの要件に資格の取得が実質的に含まれていることを考えれば、時給換算したら超低賃金労働をしている(と考えることもできる)。
正会員になれば即1,000万円? 実際はそんなには甘くない。少なくとも私の観測の範囲では、年次と役割を積み重ねてから届く世界だ。
実際、転職エージェントのJAC recruitmentによる年収データ公開記事の示す水準が、実態を適切に表しているように思います。正会員資格を取得しても600~800万くらいです。正会員になれば半ば自動的に1000万円というのは、基本的には嘘です。
アクチュアリー試験に一部合格しているものの実務経験がない場合は、初年度の想定年収は450万円程度が相場です。ただし、アクチュアリーの年収は、経験の蓄積とアクチュアリー試験の合格科目の増加にともない大幅な上昇を見込むことができ、正会員資格を取得した場合は600万円から800万円程度に達するケースが一般的です。
出典:https://www.jac-recruitment.jp/market/finance/actuary/, JAC Recruitment.
アクチュアリー試験を通過できる層は、東京一工早慶あたりが厚い。
だが、その学歴があるなら、わざわざ「資格」で上塗りしなくても他の道で年収を取りに行ける。むしろ、資格のために時間を払い続けることで、キャリアの選択肢を狭めてしまう「逆ロンダリング感」すらある。
資格としてのコスパは最悪なのである。非常に悲しい。
繰り返しになるが、東京一工早慶の大学別年収ランキングを眺めたことがあると思うが、素直に「高い」。
※東京一工早慶の大学別年収ランキングで語られる大体の年収水準
東大:30歳 760 万円 → 40歳 1,100 万円。
一橋:30歳 700 万円 → 40歳 1,080 万円。
慶應:30歳 680 万円 → 40歳 970 万円。
東工大:30歳 645 万円 → 40歳 1,000 万円。
早稲田:30歳 620 万円 → 40歳 870 万円。
そしてアクチュアリーの受験者層は、まさにその大学群が分厚い。ここで一度、当たり前を確認したい。
――その大部分は、アクチュアリー以外の仕事に就く。にもかかわらず、彼らの平均年収は高い水準に落ち着いていく。
だからこそ、「アクチュアリーでなければ辿り着けない年収」という物語には、あまり説得力がない。
東京一工早慶の人たちは、そもそもアクチュアリーではない道でも平均的に“そこ”へ届く。
必要なのは、超難関資格をプロフィールに追加することではなく、自分が戦うテーブル――産業×職種×市場――をどこに置くか、という静かな〜る選択だ。
試験に合格するまではまじで給料は普通
業務時間外の勉強が続き、土日も試験に吸い取られる。
合格すれば良いが、合格するまでの期間の給料は決して高くない。
そんなものは当たり前で、「アクチュアリーを目指している」だけで給料を多くもらえるわけがない(そんなことあったら、余裕で他の部署から顰蹙を買う)。
懸命な読者であれば「割に合わない」可能性に気づくと思う(いや本当に)。
アクチュアリー志望なら割引現在価値の計算はお手のものだろう。
たとえば割引率3%なら、10年後の1000万円の現在価値は約740万円にすぎない。
「5〜10年後にようやく高収入」は、現在価値でみるとかなり小さくなる。
しかも、その10年のあいだは可処分時間の多くを試験学習に拘束される。
同じ10年でも早期に高めの年収へ到達し、給料を投資信託などにぶち込んで複利でぶん回す戦略と比べると、見劣りしやすい。
ぶっちゃけキャリアの早い段階で高い年収に到達し、投資信託などにお金を放り込んでおく方が圧倒的な勝者である(と勝手に思っている)。
弱音を吐いても友人に共感してもらえない
やっかいなのは、弱音を吐きにくいことでもある。
アクチュアリー志望以外の人からは「勉強しながらお金がもらえるポジション」と見られがちで、
「しんどい」と言っても「勉強してるだけで給料もらえるならいいじゃんw」で片づけられることが少なくない。
これは意外とあるあるなので、気をつけて。
ここで海外のアクチュアリーの声に耳を傾けてみよう。。
Redditにいる海外のアクチュアリーたちの評判をみてみよう!
(もちろん、海外のケースなので必ずしも日本に当てはまらないかもしれないということには注意)
この「アクチュアリーって幸せ?」というスレッドにおいては、
You are not properly compensated while you are taking prelims, that’s for sure. That’s why my advice for people who perennially struggle with exams is to try another profession – it’s just not worth it. The actuarial profession for someone who takes 3 attempts per exam is probably one of the worst returns on time investment there is.
Once you reach ASA, you probably feel you are compensated somewhat fairly. Possibly not enough to make up for the struggle leading up though.
Once you hit FSA, you probably feel overcompensated, but not sure if others feel this way. In my initial FSA years, I was doing individual contributor work still, and it felt silly getting paid 6 figures given the hours I was putting in. Maybe not having to study finally just makes everything seem rosy.
Once I got into a management role, I felt more like, ok this is a fair salary given all the stuff I have to deal with.
という投稿が多くのlikeを集めています。何を言っているかというと。
【上記翻訳】
予備試験(prelims)を受けている間は、十分な補償を受けていない——これは間違いない。だからこそ、いつまでも試験で苦戦している人には、別の職業を勧める。割に合わないからだ。1科目につき3回かかるような人にとって、アクチュアリーは時間投資に対するリターンが最悪クラスの職業だと思う。
ASAに到達すると、「ある程度は公正に報われている」と感じるかもしれない。とはいえ、それまでの苦労を補うほど十分かと言われると、そうでもない可能性がある。
FSAになると、「やや過剰に報われている」と感じるかもしれない——少なくとも私はそう感じた。FSAになったばかりの頃は、まだ**個人貢献者(IC)としての仕事をしていて、投入している労働時間を考えると6桁の年収(six figures)**をもらうのが妙に思えた。勉強しなくてよくなったことで、何もかもバラ色に見えていただけなのかもしれないが。
その後マネジメント職に就くと、「扱うことの多さを考えれば、この給与は公平だ」と感じるようになった。
うーん微妙すぎる。
アクチュアリー正会員になれば「食いっぱぐれない」というキャッチフレーズに搾取されるな
「アクチュアリーは資格さえ取れば食いっぱぐれない」——このフレーズは、耳に心地よく、未来を保証してくれる呪文のように響く。
これ、海外のアクチュアリーがよくいうフレーズが日本でも定着してしまっただけ説を推したい。
少なくとも日本の労働市場では、そもそも終身雇用の慣行が強く、よほどのことがなければ一方的に職を失うことはまれだ。
就活生が何気なく口にする「食いっぱぐれない」というフレーズだが、具体的にどんなシチュエーションを想定しているのか甚だ疑問である。みんなの周囲の大人たちは、クビにされまくっているのだろうか。
お父さんお母さんは何回かクビになっているのだろうか(なりまくって無職だったらごめんなさい)。
別の説もある。
企業は採用母集団を安定的に確保したい。そして一部の転職エージェントは、“安全で希少で将来安泰”という誇張した物語を売るほどフィーが動く。
こうして「食いっぱぐれない」は、採用や転職斡旋のためのプロパガンダとして磨かれ、安心を求める心に滑り込む(搾取されるな)。
だからお願いがある。「アクチュアリーは食いっぱぐれない・安心だよ!」というキャッチフレーズに、食い物にされないでほしい。
アクチュアリーは出口戦略がない
もう一つ重要なのは、アクチュアリーの出口戦略が険しいということである。
アクチュアリーだと年収が頭打ちにであることに気付いたとしても、「アクチュアリー試験に注いできた勉強時間をサンクコストにしたくない」という思いが心理的に大きくなり、外への一歩が重くなる。これが通称「資格トラップ」だ。
また、アクチュアリーは専門性が高いが故に、アクチュアリー以外で活きてくる要素が少ない。
保険業界を横にスライドしていくことはできるが、より広く外に出るのが難しい。
それでもアクチュアリーを目指す理由があるとすれば
ここまでアクチュアリーのネガキャンをしてきた(本当にごめんなさい)。
しかし、アクチュアリーには、救いもある。
まず、文化が穏やかだ。
声が小さくても、ボソボソ話していても「まあアクチュアリーだし」で許される空気がある。
人当たりは柔らかく、ぬるま湯のように生きていける。
時にアクチュアリーは、数字を計算するだけではなく説明することも大事であることが(勿論)説かれるわけだが、
正直なところボソボソ喋ってても大丈夫だし、もごもご喋ってる人が多い。割と許される(うれしい)。
ペーパーテストが好きで、難しい試験を突破したことを静かに誇りたい人には相性がいい(ただし、資格を取った・試験に受かったという話題は、社会に出ると驚くほど価値が薄まる。結局のところ、世の中は年収でマウントが取り合われる。ここを勘違いすると心が削れるので注意)。
少し整理すると、アクチュアリーに適正があるのは以下のような人たちだ(個人の意見)。
- トップ校の就活文化になじまず、ギラギラした戦い方がしっくりこない人。
- 基準が極めて明確な資格ベースの評価に安心する人。
- 資格勉強が好きで、業務後や土日の勉強がむしろ楽しい人。
- 足し算や掛け算をして、結果を説明するだけでお金を貰いたい人。
- 陰キャオタクなので、陰キャオタク同士で集まりたい人。
- 微妙な学歴なので、資格でロンダリングしたい人。
結局のところ、巷に溢れる誇大広告に乗らないこと。難しい試験=高収入ではないこと。アクチュアリーは、静かな努力と几帳面さが評価される、穏やかなプロフェッションだ。
「難しさ」ではなく、「自分が長くいられる居場所」で選ぶ。それが、アクチュアリーという仕事と健全に付き合うための最低限の現実感だと思う。
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