なんとなく、みんなとBlokusを遊ぶ機会があったため、歴史を調べてみました。
Blokus は、フランス人デザイナーの Bernard Tavitian によるアブストラクト系のテリトリー戦略ゲームで、フランスでは 2000 年に Sekkoïa から商業発売され、2001 年にはカンヌ国際ゲーム祭の As d’Or で受賞、日本では 2002 年の日本ボードゲーム大賞で受賞するなど、比較的早い段階で国際的な評価を得ました。現行の Mattel 版説明書も、Blokus が “based on the original concept by Bernard Tavitian” であることを明記しています。
シリーズ史を大きく分けると、Sekkoïa 時代の創成期、受賞と各国展開による拡大期、Mattel 傘下でのブランド化・派生展開期の三段階で整理できます。とくに重要なのは、Mattel が 2008 年 10 月に Sekkoia SAS を買収し、Blokus の商標・商号権を取得したことです。Mattel の 2009 年年次報告書は、この取得額を 3,510 万ドルと記しています。これは Blokus が単なる一作のボードゲームから、Mattel の保有する知的財産ポートフォリオの一部へと位置づけ直された転換点でした。
ルール面では、「同色ピースは辺接触不可、角接触のみ可」という核が一貫して維持されてきましたが、派生版ではこの原理が別の幾何学体系へ移植されています。Blokus Duo は 2 人専用・小型盤・中央寄りの開始点へ、Blokus Trigon は三角グリッドと 22 ピース構成へ、Blokus 3D は立体配置へと拡張されました。つまり、Blokus ブランドの歴史は、単一ルールの固定ではなく、角接触という原理の抽象化と再利用の歴史でもあります。
また、Blokus は商業的成功だけでなく、教育利用・数学教育・計算理論研究にも波及しています。Mattel 日本法人は 2019 年の公式資料で、日本において Blokus が 小学校のカリキュラムや社内研修のツールとして使われていると述べています。さらに教育分野では ERIC 収録論文や George Fox University の教材記事が、Blokus を 空間認識・図形理解・論理的推論の教材として扱っています。研究面でも、2026 年の米国数学会合同会議では “A Blokus Puzzle Game that is NP-Complete”という発表が確認でき、ゲームが理論計算機科学の対象にもなっていることがわかります。
成立と初期普及
一次資料と当時報道を突き合わせると、Blokus の基本的な史実はかなり明確です。発明者・デザイナーは Bernard Tavitian、初版発売は 2000 年のフランス、発売元は Sekkoïaです。2001 年の As d’Or の公式アーカイブ PDF でも、受賞作として “BLOKUS – Auteur: BERNARD TAVITIAN, Éditeur: SEKKOÏA” が明記されています。現行 Mattel 版説明書でも、Tavitian の原コンセプトに基づくことが繰り返し確認できます。
Bernard Tavitian 自身については、一次情報として十分整った公式略歴ページは今回の検索では見つかりませんでしたが、本人への長文インタビューでは、1960 年生まれ、理系教育を受け、1987–1989 年に Yale 大学で post-doc、1990–2005 年に Institut français du pétrole の研究職だったことを本人が語っています。このため、Blokus はしばしば「フランスの生物物理系研究者/科学者が考案したゲーム」と説明されますが、その背景には、数学・科学・研究職の経験が実際に存在していたと見てよいでしょう。
開発背景とコンセプトについては、「幾何学図形で構成したオーケストラの絵の額縁を考えているうちに着想した」という逸話が、2005 年のレビュー記事などで繰り返し紹介されています。同記事はさらに、同色ピースが接触しないというルールの発想を 四色定理と結び付けています。ただし、この創作逸話については、今回の調査で デザイナー本人の一次インタビューにおける直接陳述の初出までは特定できませんでした。したがって、この点は「広く流布した説明」として扱い、断定は避けるべきです。
初期普及の勢いは、2001 年の Le Parisien の記事からもうかがえます。同紙は、Blokus が Grand Prix du jouet 2000 を受け、2001 年 1 月時点で約 7,000 本販売されたと報じています。この数字は現在の国際販売規模に比べれば小さいものの、発売直後のフランス市場で「受賞作として立ち上がった」ことを示す重要な早期証言です。
ルール設計と変遷
Blokus の歴史で最も重要なのは、製品や版が増えても、ルール核がほぼ揺らいでいない点です。現行 Mattel 英文説明書では、各プレイヤーが 21 ピースを持ち、最初の手番では自分のピースが盤の角マスを覆うこと、その後は 同色ピースに少なくとも一つの角で接し、辺では接してはならないこと、異色ピース同士の接触には制限がないことが明記されています。これは旧版 UK マニュアルでも同様で、ルール核自体は少なくとも Mattel 初期版から現行まで連続しています。
一方で、勝敗表現の前景化には変化があります。旧版 UK マニュアルは、ゲーム終了後に “the player with the highest score is the winner” とし、スコア計算を前面に出していました。これに対し現行英語説明書と日本語説明書は、まず 「残りマスが最少の人が勝ち」という基本スコアを示し、続けて アドバンスト・スコアとして旧来型の加点・減点方式を提示します。つまり歴史的には、上級者向けの計算ルールが、ファミリー向け説明の中で二段階化されたと整理できます。
現行日本語説明書は、人数変化へのローカライズも丁寧です。2 人戦では 1 人 2 色を担当し、対角 2 か所を開始位置にすること、3 人戦では余った 1 色をフリーピースとして交替使用すること、さらに 1 人遊びのパズル化ルールまで掲載しています。この点は、Blokus が単なる対戦ゲームであるだけでなく、家庭用・教育用・知育用に広く受容される過程で、説明書自体が遊びの入口を増やしてきたことを示します。
派生版では、同じ設計思想が別の盤面構造へ拡張されました。Blokus Duo の公式説明では、これは「Blokus を知っている人向けの 2 人専用・高速版」であり、Travel Blokus 取扱説明書では 42 ピース、196 マス盤、2 つの開始点が明示されています。Blokus Trigon は公式ガイドによれば、4 色 × 22 ピース、486 スペースの三角グリッドを用い、角接触の思想を三角格子上の配置ルールへ置き換えています。ここで重要なのは、Blokus ブランドが「20×20 の四角盤」に固定されていないことです。むしろブランドの本体は、角接触/辺非接触という抽象ルールにあります。
主要版と派生商品の展開
下表では、シリーズの主要版について、初出年と今回確認できた根拠の性質を分けて示します。とくに Duo と Trigon については、「シリーズ初出年」は二次資料で 2005・2006 と確認できる一方、Mattel が現在公開している自社商品ページでは 2018・2009 などの“Mattel 版リリース年”を示しているため、両者を区別して記載します。
| 版・派生商品 | 初出年 | 発売元・確認できた版 | 主な特徴 | 証拠・注記 |
|---|---|---|---|---|
| Blokus | 2000 | Sekkoïa(フランス初版)/Mattel 現行版 | 20×20 盤、各色 21 ピース、角接触のみ | フランスで 2000 年初版、2001 As d’Or 受賞。現行説明書でも Tavitian 原案を明記。 |
| Blokus Duo | 2005(シリーズ初出) / 2018(現行 Mattel 版) | 近年の Mattel 版は 2018 年リリース、日本でも 2018 年 7 月下旬発売告知 | 2 人専用、小盤面、白黒ピース、テンポが速い | 2005 年初出は二次資料、Mattel 版 2018 は公式商品ページ・日本公式 PR。 |
| Blokus Trigon | 2006(シリーズ初出) / 2009(Mattel 版) | Mattel product detail では 2009 | 三角形ピース、六角形ボード、各色 22 ピース | 2006 年初出は二次資料、Mattel 版は公式商品ページと公式ガイドで確認。 |
| Blokus 3D | 2008(日本受賞時点で販売) / 2009(Mattel 版) | 日本では 2008 年日本ボードゲーム大賞ゆうもあ賞、Mattel 版は 2009 | 立体配置型。作者表記が K. シュテファンで、クラシック Blokus と設計系譜が異なる | 2008 年ゆうもあ賞ページに作者 K.シュテファン・発売元ビバリー。Mattel 版は 2009 リリース。 |
| Blokus To Go | 2009 | Mattel | 携帯版・トラベル版 | Mattel 支援ページで 2009 年発売・2015 年終了を確認。 |
| Blokus Junior | 2011 / 2020 再設計版 | Mattel | 幼年向け簡略版。小さい盤、簡単なピース、ミニゲーム | 2011 年版と 2020 年の “reimagined” 版を公式 product detail で確認。 |
| Blokus Puzzle | 2019 | Mattel Japan | 1 人用パズル商品 | 2019 年 6 月末発売の日本公式発表。 |
| Blokus Shuffle: UNO Edition | 2021 | Mattel | Blokus に UNO のアクションカード要素を加えたハイブリッド版 | Mattel product detail で 2021 年リリース。 |
国際展開と販売実績と評価
Blokus の国際展開は、2000 年代初頭の受賞ラッシュと、日本市場への早期移植によって加速しました。フランスでは 2001 年の As d’Or 受賞が大きな追い風となり、日本では 2002 年の日本ボードゲーム大賞で “The Best Japanese Game” として扱われています。ここでいう “Japanese Game” は日本オリジナルという意味ではなく、日本語パッケージで日本国内販売されたゲームという賞区分です。Blokus はこの時点で既に日本国内流通に成功していたことになります。
販売規模の数値として、初期の一次寄り資料では、2001 年 1 月時点でフランス国内 約 7,000 本という報道値が確認できます。より後年の Mattel 日本公式資料では、Blokus が 世界 50 カ国以上で支持されていると繰り返し表現されており、少なくとも 2018–2025 年の Mattel 公式広報において、Blokus が国際ブランドとして位置づけられていることは明白です。今回の調査では、累計販売本数について Mattel 公式一次資料で一貫した最新値までは確認できませんでした。一方、非公式・二次的な販促文には「300 万本超」などの数値も見られますが、一次資料で裏付けられないため、本レポートでは採用していません。
受賞歴は、一次資料と業界報道を組み合わせると次のように整理できます。2001 年 As d’Or(カンヌ)、2002 年 日本ボードゲーム大賞、2008 年 日本ボードゲーム大賞ゆうもあ賞(Blokus 3D)は公式ページ・公式 PDF で確認できます。また業界紙 ICv2 は、Mattel による権利取得時の記事で、Blokus が Mensa Select と Teacher’s Choice Award 2004 を受けたと紹介しています。後二者については、今回の検索では主催団体側の直接ページを十分に取得できなかったため、二次情報として扱うのが妥当です。
メディア評価・教育評価の面では、Blokus は「家族向け」と「数学的」の二重評価を受けてきました。George Fox University の教育記事は、Blokus が 視覚的スキル、戦略的配置、相手の妨害を必要とする点を数学教育に接続し、ERIC の別記事では中等数学において 空間認識、図形の属性分析、パターン比較、論理を扱える教材として明示しています。つまり Blokus は、商業ゲームでありながら、ポリオミノ・空間推論・計画性を同時に扱える教材として教育現場に取り込まれてきました。
日本では 2019 年に Mattel が 「ブロックス グランプリ」 を開催しており、家庭用ゲームでありながら大会文化も形成しています。同じ 2019 年の公式資料では、日本国内で 小学校カリキュラムや社内研修のツールとして使われていると企業自ら述べています。これは純粋な第三者調査ではなく広報資料ですが、企業が Blokus を 知育的・対人コミュニケーション的価値をもつゲームとして訴求していたこと自体は、ブランド史の一部として重要です。
学術的な広がりは教育だけに留まりません。Australian Mathematics Teacher 2017 論文は Blokus を polyominoes を用いる抽象戦略ゲームとして解説し、2023 年の Australian Mathematics Education Journal は Trigon を polyiamonds の教材・パズル文脈で扱っています。さらに 2026 年の Joint Mathematics Meetings では、Blokus puzzle game が NP-complete であるという研究発表が確認されます。Blokus は「よく売れた玩具」で終わらず、幾何・教育・計算複雑性をまたぐ参照対象になったと言えます。
知財と法的事項と地域差
法的事項で最重要なのは、Mattel による Sekkoia の取得です。Mattel の 2009 年年次報告書は、2008 年 10 月に Mattel が Sekkoia SAS を取得し、Blokus の trademark and trade name rights を得たこと、取得額が 3,510 万ドルだったことを記しています。これに対し、2009 年 1 月の業界報道は「Mattel が Blokus を取得した」と報じており、実際の取得時点は 2008 年 10 月、対外的なニュース化は 2009 年初めという二段階で理解するのが正確です。
商標面では、公開商標データベースの二次反映サイトで、BLOKUS DUO の米国登録が 2017 年出願、2018 年登録、権利者 Sekkoia, S.A.S. として確認できます。ただし、これは USPTO の公式画面そのものではなく、公式データを再掲する外部データベースです。そのため、法的事実として使うなら Mattel 年次報告書のような一次資料を主軸に置き、商標登録の細目は 補助的確認に留めるのが安全です。
「重要な特許」については、今回の検索で Blokus の標準 2D ルールそのものに直接結びつく、Bernard Tavitian / Sekkoïa 名義の一次的に確認可能な特許公報を確定できませんでした。Google Patents 等でヒットする polyomino 系特許の中には Blokus とは別系統の発明も含まれており、誤認の危険があります。したがって本レポートでは、Blokus 史に関して一次資料で確実に追える知財事項は、商標・商号権の取得とブランド管理の移転である、という慎重な整理を採用します。
入手可能な主要言語版と地域差については、Mattel の現行公式ストアの地域セレクタから、少なくとも 英語(米国・英国・カナダ)/フランス語(カナダ・フランス)/スペイン語(メキシコ・スペイン)/ポルトガル語(ブラジル)/ドイツ語/イタリア語/オランダ語/ギリシャ語 といった地域ローカライズが存在することが確認できます。さらに日本には mattel.co.jp の独立した商品・説明書ページがあり、日本語版の実在は明白です。ただし、各ロケールで常に Blokus の箱物現物が流通しているかまでは、このストア UI だけでは断定できません。ここではあくまで 公式販売・表示ローカライズが確認できる言語・地域として整理するのが適切です。
日本市場の地域差として確定できるのは、2002 年時点ではビバリーが日本国内販売版を扱っていたことです。日本ボードゲーム大賞 2002 の公式結果ページは、Blokus を “B. Tavitian / Beverly” と記しています。一方、2020 年代の日本公式資料は Mattel International を発売元・販売元としており、権利と流通の主軸が Mattel 側へ移ったのは確実です。ただし、ビバリーから Mattel 日本法人への切替時期を一次資料で明示した公式文書は、今回の検索では確認できませんでした。
近年の地域差として興味深いのは、英国向け公式商品ページが “Colorblind Accessible Pieces” を前面に打ち出している点です。これは、Blokus が単に各国語に翻訳されるだけでなく、アクセシビリティ改良を伴う現代的再商品化の対象にもなっていることを示します。
年表
上のタイムラインは、下表の出典に基づいて整理した模式図です。公式資料で確認できる出来事を優先し、初出年が二次資料由来のものは表内で明示しています。
| 年 | 主要出来事 | 歴史的意味 | 主な出典 |
|---|---|---|---|
| 2000 | フランスで Sekkoïa から Blokus 初版発売 | シリーズ成立点 | ICv2 の取得報道、2002 日本ボードゲーム大賞結果ページの “@2002/2000年” 表記。 |
| 2001 | カンヌ国際ゲーム祭 As d’Or 受賞 | 初期の権威づけと欧州での知名度上昇 | 公式 As d’Or アーカイブ。 |
| 2001 | Le Parisien が約 7,000 本販売を報道 | 初期フランス市場での商業的立ち上がり | Le Parisien 記事。 |
| 2002 | 日本ボードゲーム大賞受賞、日本語パッケージ流通確認 | 日本市場への本格定着 | 公式結果ページ。 |
| 2005 | Blokus Duo 初出 | 2 人専用化によるブランド拡張開始 | 二次資料。Mattel 現行版は 2018。 |
| 2006 | Blokus Trigon 初出 | 三角格子へのルール移植 | 二次資料。Mattel 現行版は 2009。 |
| 2008 | Blokus 3D が日本ボードゲーム大賞ゆうもあ賞 | 3D 派生が日本で高評価 | 公式ゆうもあ賞ページ。 |
| 2008年10月 | Mattel が Sekkoia SAS を買収、Blokus 商標・商号権取得 | ブランド所有の転換点 | Mattel 2009 年次報告書。 |
| 2009 | Mattel 版 Blokus Trigon / Blokus 3D / Blokus To Go | Mattel 傘下で派生ラインを再編 | Mattel product detail。 |
| 2011 | Blokus Junior 発売 | 低年齢層向け知育ライン強化 | Mattel product detail。 |
| 2018 | Mattel 版 Blokus Duo、日本で 7 月下旬発売 | 日本で 2 人専用版を再プッシュ | Mattel Japan 公式 PR。 |
| 2019 | 日本で Blokus Puzzle 発売 | 1 人用パズル化 | Mattel Japan 公式 PR。 |
| 2019 | 日本で Blokus Grand Prix 初開催 | 大会文化・コミュニティ施策 | Mattel Japan 公式 PR。 |
| 2020 | Blokus Junior の再設計版 | 現代的再パッケージ化 | Mattel product detail。 |
| 2021 | Blokus Shuffle: UNO Edition 発売 | ブランド横断コラボ派生 | Mattel product detail。 |
| 2024–2025 | 公式広報で「世界 50 カ国以上」、英国版で colorblind accessible を強調 | 国際定番化とアクセシビリティ対応 | Mattel Japan / Mattel UK。 |
| 2026 | JMM で Blokus の NP-complete 性に関する発表 | 計算理論上の研究対象として継続 | AMS 発表概要。 |
最後に、今回、、、なぞに明示的に未解明のまま残った点も記しておきます。
第一に、クラシック 2D Blokus のルールそのものに直接対応する、確実な一次特許公報は確認できませんでした😭😭😭😭😭
第二に、Blokus Duo と Blokus Trigon の「Mattel 以前の厳密な初版資料」は十分な一次資料にアクセスできず、初出年 2005 / 2006 は二次資料で補っています。
第三に、日本市場でビバリー版から Mattel 版へ切り替わった正確な時点を示す公式一次文書は、今回の検索では取得できませんでした。
この三点については、推測を避け、未確認事項として残します😭😭😭😭😭😭


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