この記事では、対数正規分布の2つのパラメータ \(\mu,\sigma^2\) を、モーメント法で推定する手順をわかりやすく解説します。
「理論上の平均・分散を、データの平均・分散に合わせる」という考え方です。モーメント法そのものが初めての方は、先に「モーメント法とは?母平均=標本平均の発想と最尤法との使い分け」を読むとスムーズです 😊
使う記号を先に決める
\(X\sim LN(\mu,\sigma^2)\) とします。つまり \(\log X\sim N(\mu,\sigma^2)\) で、観測値 \(x_1,\ldots,x_n\) はすべて正です。
標本平均を \(m\)、分母を \(n\) とする標本分散を \(v_n\) と置きます。
\begin{align*} m&=\bar x=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}x_i\\ v_n&=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^{n}(x_i-\bar x)^2 \end{align*}
ここで \(m>0\) です。分散には \(n-1\) ではなく \(n\) を使います。モーメント法では、理論モーメントと標本モーメントをそのまま一致させるためです。
対数正規分布の平均と分散
対数正規分布の期待値と分散は、
\begin{align*} E[X]&=\exp\left(\mu+\frac{\sigma^2}{2}\right)\\ \operatorname{Var}(X) &=\exp(2\mu+\sigma^2)\left(\exp(\sigma^2)-1\right) \end{align*}
です。導出から確認したい方は、「対数正規分布の期待値・分散の導出」もご覧ください。
モーメント方程式を作る ✍️
理論上の平均・分散を、標本側の \(m,v_n\) と一致させます。
\begin{align*} \exp\left(\mu+\frac{\sigma^2}{2}\right)&=m\\ \exp(2\mu+\sigma^2)\left(\exp(\sigma^2)-1\right)&=v_n \end{align*}
1本目の式を2乗すると、
\begin{align*} \exp(2\mu+\sigma^2)=m^2 \end{align*}
です。これを2本目へ代入すれば、
\begin{align*} m^2\left(\exp(\sigma^2)-1\right)&=v_n\\ \exp(\sigma^2)&=1+\frac{v_n}{m^2}\\ \hat\sigma^2_{\rm MM} &=\log\left(1+\frac{v_n}{m^2}\right) \end{align*}
を得ます。
さらに1本目の式の対数を取ると、
\begin{align*} \mu+\frac{\sigma^2}{2}=\log m \end{align*}
なので、
\begin{align*} \hat\mu_{\rm MM} &=\log m-\frac{\hat\sigma^2_{\rm MM}}{2}\\ &=\log m -\frac{1}{2}\log\left(1+\frac{v_n}{m^2}\right) \end{align*}
となります。
\begin{align*} \hat\mu_{\rm MM} &=\log m-\frac{1}{2}\log\left(1+\frac{v_n}{m^2}\right)\\ \hat\sigma^2_{\rm MM} &=\log\left(1+\frac{v_n}{m^2}\right) \end{align*}
数字を入れてみよう 🧮
標本平均が \(m=10\)、分母を \(n\) とする標本分散が \(v_n=25\) だったとします。
\begin{align*} \hat\sigma^2_{\rm MM} &=\log\left(1+\frac{25}{10^2}\right)\\ &=\log(1.25) \approx0.223 \end{align*}
続いて、
\begin{align*} \hat\mu_{\rm MM} &=\log 10-\frac{0.223}{2}\\ &\approx2.191 \end{align*}
です。平均と分散を2本の方程式に入れるだけで、2つのパラメータを推定できました。
よくある注意点 ⚠️
- \(\log x_i\) の平均・分散を使う方法とは別:対数データへ正規分布の最尤法を使うと、\(\hat\mu_{\rm ML}=\overline{\log x}\)、\(\hat\sigma^2_{\rm ML}=n^{-1}\sum_i(\log x_i-\overline{\log x})^2\) となり、本記事のモーメント推定量とは一般に異なります。
- 分散の定義を混ぜない:この記事の \(v_n\) は分母が \(n\) です。分母 \(n-1\) の不偏分散をそのまま代入しないようにします。
- すべての値が同じ場合は境界になる:\(v_n=0\) なら \(\hat\sigma^2_{\rm MM}=0\) です。\(\sigma^2>0\) と限定する通常の母数空間では解がなく、0を許せば退化分布に対応する境界推定値です。
- データは正である必要がある:対数正規分布は \(x>0\) の分布です。
- 外れ値に注意する:平均や分散は大きな観測値の影響を受けやすいため、データの確認も大切です。
まとめ
対数正規分布のモーメント法では、理論上の平均・分散と、標本平均 \(m\)・標本分散 \(v_n\) を一致させます。先に \(\sigma^2\) を解き、その結果を平均の式へ戻すのが計算のコツです。
公式を覚えるだけでなく、「未知パラメータが2個だから、平均と分散の2本の式を使った」と押さえておくと、ほかの分布にも応用しやすくなります。

