下方部分積率とは?定義と計算方法をわかりやすく解説!!

下方部分積率(Lower Partial Moment:LPM)は、投資のリスク評価に使用される統計的手法の一つです。特に、金融経済学やポートフォリオの最適化の文脈で使用されることがあります。

目次

下方部分積率とは?定義と計算方法をわかりやすく解説!!

伝統的に、投資のリスクを評価するための主要な指標は分散標準偏差でした。

分散

\(X\) を収益率とする。\(X\)は確率変数で確率密度関数を\(f(x)\)とする分布に従う。
収益率の分散は、以下で求めることができる。
\begin{align*} V(X) = \int_{-\infty}^\infty |x – E(X)|^2 f(x) dx \end{align*}


しかし、これらの指標はポートフォリオの上昇と下降の両方の変動を考慮しています。多くの投資家は、ポートフォリオの価値が上昇する変動(つまり、リターンが期待値以上の場合)を「リスク」とは考えません

そこで、期待収益率からの乖離のうち、低い方への乖離のみをリスクとして捉えることにした場合、以下のような尺度を考えることができます。

定義: 下方半分散

\(X\) を収益率とする。\(X\)は確率変数で確率密度関数を\(f(x)\)とする分布に従う。
\begin{align*} V^{-}(X) = \int_{-\infty}^{E(X)} |E(X) – x|^2 f(x) dx \end{align*}
を、収益率の下方半分散という。

さらにこの考え方を一般化しましょう。
期待収益率からの乖離を、目標収益率からの乖離へと一般化し、乖離度合いへの重みづけを\(2\)乗に限らずもっといろんな実数値をとれるようにしてみましょう。
すると、以下の量を定めることができます。

定義: 下方部分積率

\(X\) を収益率とする。\(X\)は確率変数で確率密度関数を\(f(x)\)とする分布に従う。
\(c\) を目標としている収益率とし、\( \lambda \in \mathbb R\) とする。
\begin{align*} LPM(X) = \int_{-\infty}^c |c – x|^\lambda f(x) dx \end{align*}
と定め、これをパラメータ\(\lambda\)の下方部分積率という。

\(\lambda = 2\)で\(c = E(X)\)であるときには、下方部分積率は下方半分散と一致することがわかります。

ここで、目標としている収益率が何なのかについて補足しておきましょう。
目標収益率は自由に設定できる値で、自分の主観に基づいて「これ以下だと残念だな」と思える値です。
期待収益率でもよければ、何かクライアントに要求されている値でもよいです。

結論として、下方部分積率は投資のリスクを評価する際の非常に有用なツールです。
伝統的なリスク指標とは異なり、LPMは投資家が最も関心を持っているリスク、つまり損失のリスクだけを対象としています。
これにより、より現実的なリスク評価が可能となります。

ただし、リスクの尺度として何が良いかという絶対的な答えはなく、状況に応じて使い分けることが求められます。

下方部分積率の他によく使われるリスク尺度としてはVaRCVaRがあります。
VaRのメリットとしては

  1. 直感的理解: VaRは「一定の確率で最大でこれだけの損失が発生する」という具体的な金額やパーセンテージを提供するため、非常に直感的に理解しやすい。
  2. 業界標準: 金融業界で広く採用されているため、他の機関や投資家とのコミュニケーションがとりやすい。
  3. 計算の容易さ: 一定の確率での最大損失を計算する方法は比較的シンプルである。

一方でデメリットとしては

  1. 極端なリスクの無視: VaRは特定の確率での損失を示すだけで、それを超える「テールリスク」についての情報を提供しない。

が考えられます。

それに対して下方部分積率については

メリット:

  1. テールリスクの考慮: 下方部分積率は、リターンが目標以下である場合のリスクをすべて考慮するので、テールリスクを捉えることができる。
  2. 柔軟性: 乖離度合いをどれだけ重要視するかの重みづけパラメータ(\(\lambda\)のこと)を変更することで、リスクの感度を変えることができる。例えば、重みが大きい場合は乖離度を大きく考慮するため、大きな損失を重く捉えることができる。(※一般的にそう言われているが、実際には乖離度が1以下のような値の場合には、\(\lambda\)が大きければ大きいほど乖離度を小さく評価してしまうので注意)

デメリット:

  1. 直感的理解の難しさ: 下方部分積率はVaRと比較して直感的に理解しにくい可能性がある。

つまりVaRと下方部分積率は、リスクを評価する方法としてそれぞれの特徴と用途がありますが、VaRは業界標準としての位置づけが強く、直感的な理解がしやすい一方で、テールリスクの詳細を捉えることが難しいという欠点があります。一方、下方部分積率はテールリスクをより詳細に捉えることができる一方で、直感的な理解の難しさが挙げられます。

それぞれのリスク尺度の特性を理解し、適切な状況や目的に合わせて利用することが重要です。

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